来月1日からの名古屋市博物館の特別展「茶人のまなざし-森川如春庵の世界-」では、寄贈者である故森川勘一郎(如春庵)氏の遺志により永らく門外不出であった黒茶碗「時雨」が展示されます。 私の記憶では過去に二度、2005年の愛知万博開催記念に名古屋城で、昨年の重要文化財指定にともない東京国立博物館で短期間展示されたことがあるだけですから、広く一般に公開されるのは来る特別展が初めてということになります。 その会場で放映するビデオの制作のために、かつて如春庵が所持していた二つの光悦茶碗「時雨」と「乙御前」が愛知県一宮市の森川家にて55年ぶりの再会を果たしたとの記事が中日新聞2月2日夕刊に掲載されました。 故森川勘一郎(如春庵)氏が「時雨」と「乙御前」を入手した経緯が新聞記事と手元の資料では異なっているのですが、手元の資料によると明治36年4月の大阪・平瀬家の道具売立(現在でいうオークション)で「乙御前」を落札。驚いたことに勘一郎氏は当時若干17歳(!)。 実は平瀬家では他の樂茶碗を売立に出品するところを番頭が誤って「乙御前」を出品してしまい、後日、森川家へ使者を立てて事情を説明し返品を請いましたが勘一郎氏は頑として応じなかった、というエピソードを残しています。 大正5年10月には同郷尾張の茶人・下村実栗(西行庵)氏より「時雨」を譲り受けています。 第二次大戦後、経緯はわかりませんが「乙御前」は現所蔵者(個人)へ譲られ、「時雨」は昭和42年に門外不出と国宝指定・重要文化財指定を受けないことを条件に名古屋市に寄贈され、平成18年に現在の所蔵者である名古屋市博物館に移管されました。 如春庵が「時雨」を寄贈するにあたって国宝指定や重文指定を受けないことを条件としたことには、如春庵の茶人としてのひとつの“思い”があったのでしょう。 国宝・重文指定を受けると公開が義務付けられ、原則としてその使用は厳しく制限されることになります。 如春庵には“茶碗は茶席で使われてこそ意味がある”という、コレクターとしてではなく茶人としての譲れない“思い”があったのではないでしょうか。 「茶人のまなざし-森川如春庵の世界-」は今秋、三井記念美術館に巡回します。
by otogoze
| 2008-02-03 22:00
| 雑記
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