「雪峯」の高台脇に見られる窯割れ状の深い溝についてもう少し考察を続けてみます。 高台脇からは三筋の金漆で繕われた亀裂が走り、その亀裂が始まっている溝の部分にはある共通点が認められます。 三筋とも溝が浅くなっている、あるいは狭まっているように見える箇所(緑色の丸で囲んだ箇所)の直近から始まっているのです。 この部分は高台と高台脇の土が断裂せずに最後まで繋がっていた箇所なのではないでしょうか。 他の部分は高台がめり込み始めた早い段階で高台と高台脇の土が断裂してカギ裂き状の断面になり、高台と繋がったままの高台脇の三箇所には、めり込む高台に引っ張られるかたちで縦方向(上方)への力が掛かり続け、その歪みに耐えられずに亀裂が生じた、と考えられないでしょうか。 しかし、力が掛かり続けたとはいっても高台に目立った傾きも見られないことから、他の部分と三箇所の断裂の時間差は僅かだったと考えられます。 釉調を仔細に見ると、口縁から流れ下っている白釉(香炉釉)の釉肌には小さな黒っぽい孔(あな)が多数見られます。これは窯の温度が上がり過ぎて白釉が“煮えた”状態になり気泡が発生していたことを示しています。 また、透明か半透明の赤樂釉が掛けられた部分も紫がかった暗めの赤に発色し、滑らかで艶やかによく溶けていることからも、通常よりも高い焼成温度だったことが推測できます。 土は赤土が使われていますが、一般に赤土は白土に比べて耐火度が低く“へたり”が生じやすい。これは赤土は窯での焼成温度が高くなり過ぎると変形しやすいということです。 また、全体に厚手に造られていたために(特に底部)、土の内部まで完全に乾燥せずわずかに水分が残った状態で焼成され、熱による水分の膨張によって火割れを招いたという可能性もあるかもしれません。 香炉釉が使われていることから「雪峯」は「不二山」と同じく常慶の手を借りて焼成されたと考えられますが、次代の道入(のんこう)が使った窯と比べてまだ窯の状態が不安定だったのかもしれません。 ・器体が厚手で重い。 ・器体の大きさに比して高台がアンバランスに小さい上にやや高かった。 ・厚手であったために土が内部まで乾燥せずに水分が残っていた可能性。 ・釉調から推測して赤樂としては高火度で焼成された。 ・赤土は耐火度が低い(元々割れやすい)。 これらの複合的な要因によって、高台が器体にめり込み大火割れを起こした、ということではないでしょうか。 高台脇の溝は意図的なものではなく、推測されるようないくつかの要因が絡み合って生じた偶発的なものだった、と考えています。 つづく
by otogoze
| 2008-02-24 00:22
| 陶芸
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