前回から半年も空いてしまいました。 今回は美術館や博物館に所蔵されている光悦茶碗についてです。 全国各地の美術館・博物館には光悦作、あるいは伝光悦作とされる茶碗が少なからず所蔵されています。 大正名器鑑に載っているよく知られたものからほとんど知られていないもの、中には所蔵はしているけれども開館以来一度も展示されたことがないというものまであります。 展示されないということは信憑性に難ありということなのでしょうね。 大正名器鑑所載のものを除いて、黒樂茶碗、赤樂茶碗、飴樂茶碗、そして膳所光悦茶碗と呼ばれるものに別けて挙げます。 黒樂茶碗 銘 村雲(むらくも) 樂美術館 黒樂茶碗 銘 東(あずま) 北村美術館 黒樂茶碗 銘 本法寺(ほんぽうじ) 滴翠美術館 黒樂茶碗 銘 水翁(すいおう) 頴川美術館 黒樂茶碗 銘 雪沓(ゆきぐつ) 大松美術館(閉館) 黒樂茶碗 無銘 逸翁美術館 黒樂茶碗 銘 呉竹(くれたけ) 百河豚美術館 黒樂茶碗 銘 大盥(おおだらい) 南惣美術館 黒樂茶碗 無銘 昭和美術館 黒樂茶碗 無銘 藤田美術館 赤樂茶碗 銘 十王(じゅうおう) 五島美術館 赤樂茶碗 銘 熟柿(じゅくし) サントリー美術館 赤樂茶碗 銘 文憶(ぶんおく) 藤田美術館 赤樂茶碗 銘 太郎坊(たろうぼう) MIHO MUSEUM 赤樂茶碗 無銘 MIHO MUSEUM 赤樂茶碗 銘 李白(りはく) 畠山記念館 赤樂茶碗 銘 刀自(とじ) 野村美術館 赤樂茶碗 銘 青柳(あおやぎ) 南惣美術館 赤樂茶碗 銘 あら玉(あらたま) 大樋美術館 赤樂茶碗 銘 松韻(しょういん) 石水博物館 赤樂茶碗 銘 霜柿(しもがき) 静嘉堂文庫美術館 赤樂茶碗 無銘 東京国立博物館 赤樂茶碗 無銘 京都国立博物館 白樂茶碗 銘 冠雪(かんせつ) 樂美術館 飴樂茶碗 銘 立峯(たちみね) 樂美術館 膳所光悦茶碗 無銘 MOA美術館 膳所光悦茶碗 無銘 膳所焼美術館 これらの中で、石水博物館、静嘉堂文庫美術館、東京国立博物館、MOA美術館の所蔵しているものは伝光悦作とされています。 こうしてみると結構たくさん所蔵されているんですね。 一つ気に留めておかなければいけないことは、現在光悦作として伝えられている茶碗は実はすべて“伝光悦作”だということです。“光悦作と伝えられている”ということ。 これは国宝に指定されている「不二山」や重要文化財に指定されている「雨雲」も例外ではありません。現代の茶碗のように作者の印が捺されているわけでも窯印が彫られているわけでもなく、また樂家歴代の茶碗のように代々独自の印が捺されているわけでもない。 茶碗自体には、確かに光悦が自分の手で造ったと証明するものは何も残されていないのです。 そんなことを言ってしまっては身も蓋も無いじゃないか―― 確かにそうかもしれませんね。しかし現状ではそれが偽らざるところです。 「不二山は箱書が光悦の自筆で、印まで捺されているじゃないか」と言われるかもしれませんが、それだって光悦自筆と客観的に証明できるものではありません。あくまでも光悦自筆と推定されるということです。 実は私は“不二山”の筆書はともかく、印については疑問を持っています。 つまり、光悦茶碗については鑑賞するにしても真贋を鑑定するにしても、その事実はどうしても避けられないことなのです。 「これは光悦作に間違いない」と断定できるものではなく、「これは光悦作と考えていいのではないか」という蓋然性が最終的な判断基準にならざるを得ないということです。 実際、古美術の専門家や陶磁器研究者にとっても光悦茶碗の鑑定は最も難しいと言われています。 ここに挙げた美術館・博物館に収められた光悦茶碗のうち、恐らく半数以上はいわゆる“写し”と呼ばれる別人が造った模作などが光悦作として伝わったものではないかと考えています。 真贋を見極めることがとても難しい―― それも光悦茶碗が今も昔も多くの人を魅了して止まない理由の一つなのかもしれませんね。
by otogoze
| 2006-09-06 04:03
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