つい先日、老舗オークションハウスのクリスティーズで鎌倉時代末の運慶工房の作「木造大日如来座像」が競売にかけられ、三越が約1280万ドル(約12億5000万円)で落札したとの報道が日本中を駆け巡りました。 国内の顧客からの依頼を受けての代理入札だったそうですが、もちろん詳細は明らかにされていません。 *後日、依頼者が宗教法人の真如苑であることが公表されました。 国宝・重要文化財級の仏像の海外への流出が懸念されていましたが、ひとまず貴重な文化財の海外流出は避けられたようです。ただ、残念ですが恐らく一般公開はないでしょう。 明治維新前後の動乱期には、来日した外国人の手により多くの美術品が海外に持ち出されましたが、光悦茶碗の中にも海を渡り、彼の地の美術館のコレクションに加わったものがいくつかあります。 した碑。西本願寺二十一世大谷光尊の四男・大谷尊由の 碑文を益田孝(鈍翁)の書で碑右下の銅板に刻んである。 チャールズ・ラング・フリーア(Charls L. Freer)氏はアメリカ・デトロイトの実業家で、日本をはじめとする東洋美術の理解者・蒐集家として知られ、その蒐集品はアメリカの首都ワシントンD.C.にあるスミソニアン協会が管理運営するスミソニアン博物館群の一つ、フリーア美術館に収蔵されています。 フリーア氏は特に光悦に傾倒し、益田孝(鈍翁)氏をはじめ多くの数寄者と交流を持ちました。 来日の度に光悦寺にある光悦の墓に参るなど光悦の偉大さを宣揚した実績を讃え、昭和5年(1930)には光悦寺境内にその顕彰碑が造られています。 フリーア美術館(Freer Gallery of Art)所蔵の黒茶碗には、樂家六代左入の箱書による「蓑亀(みのがめ)」という銘があった記録が残っていますが、海外に渡った茶碗の常で箱は既に廃棄されています。明治32年(1899)、フリーア美術館に収蔵されました。 「七里」や「徳禅寺伝来黒茶碗」とほぼ同型の腰に稜をくっきりと付けた角造りの茶碗で、「七里」などに比べるとやや大人しい印象を受けます。釉はやや茶色がかっており、腰の部分には釉薬がかすれたように薄くなっている部分が見られます。また、正面の反対側の腰の部分には窯割れ状の短い亀裂が一筋見られます。 フリーア氏の遺志により、フリーア美術館の館蔵品はすべて門外不出となっていて、この「蓑亀」も同様ですが、できることならばいつか里帰りさせてやって欲しいものです。 また、フリーア美術館には他にも Style of Koetsu (光悦風)や Copy of Koetsu (光悦写し)という茶碗がいくつか収蔵されています。 この黒茶碗はイギリス・ロンドンのヴィクトリア&アルバート美術館(Victoria&Albert museum)に明治10年(1877)に収蔵されました。 1877年にサウスケンジントン博物館(ヴィクトリア&アルバート美術館の前身)の100周年記念展覧会に日本政府として美術品を出品した際、日本赤十字社の創設者であり第二代農商務大臣を務めた佐野常民氏によって選定された陶磁器216点の内の1点がこの黒茶碗でした。 展覧会終了後、この216点が総額1000ポンドでサウスケンジントン博物館に購入され、同館のコレクションに加わりました。 この黒茶碗も前述の「蓑亀」と同様に「七里」などと同型ですが、「蓑亀」と比べるとこちらの釉薬はより黒く発色しているように見えます。箱は廃棄されており、銘があったのか否かはわかりません。 また、この画像では判りにくいですが、口縁の一部が内側に巻き込むように抱え込まれているのが特徴的です。 明治11年(1878)のフランス・パリ万国博覧会で、日本政府と仏国セーヴル陶器博物館との間で行われた交換によって、セーヴル窯製の一対の飾り壷と69点の日本の陶磁器が交換されました。その中に含まれていたのがこの赤茶碗です。 現在はセーヴル国立陶磁美術館(Musee National de Ceramique Sevres)に収蔵されています。 飾り壷一対と69点の陶磁器では随分不公平な気もしますが、当時はそれほどセーヴル製の磁器が貴重なものだったということでしょう。 いかにも光悦的なふくよかな丸みを持った茶碗ですが、伝光悦作とされているようです。 また、フランス国立ギメ東洋美術館(Musee Guimet)にも光悦作とされる茶碗が所蔵されているようですが、詳しいことはわかりません。 私は常々、日本の美術品の中で外国の方々にとって最も理解しにくいモノは樂茶碗を筆頭とするいわゆる茶陶ではないかと考えています。 それでも前述した二つの黒茶碗は比較的シンメトリーに近い均整の取れた形をしていますから、まだ受け入れやすいものだったかもしれません。 日本人と外国人の美意識、美的感覚の差異については記事を改めます。
by otogoze
| 2008-03-23 23:43
| 陶芸
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